サブバッテリーシステムで使用する電線の決め方と端子について

サブバッテリーシステムの設置のみならず車をカスタムする上で迷うのが電線の選定。

例えば1800Wのインバーターとサブバッテリー間に流れる電流は

1800W / 12V = 150A

つまり最大150Aの電流が流れるので許容電流が162Aの38SQ KIV電線を選択すれば良いような気がしますが、果たして本当にそれで大丈夫なのか検証します。

KIV電線(電気機器用ビニル絶縁電線)とは

適切な電線と太さを考察する前にKIV電線について説明しておきます。

KIV電線は説明するまでも無く細い素線を絶縁体で覆ったいわゆる電線です。

また、KIV電線の絶縁体より耐熱性を高めたHKIV電線や更に耐熱性を高めた(S)HKIV電線(ネツタフ115等)もあります。

KIV電線とHKIV電線はJIS規格のため各メーカーによる性能の違いがほぼありませんが、ネツタフ115等はJISに加え(財)電気安全環境研究所(JET)により絶縁体の使用温度の上限値を登録しています。
(ワンゲインのHKIV電線については何の表記もないので不明)

各電線の規格は以下の通りです。

KIV HKIV ネツタフ エーモン
導体最高
許容温度
60℃ 75℃ 115℃ 80℃
許容電流算出
周囲温度
30℃ 70℃
主な太さの許容電流(許容電流算出周囲温度時)
2SQ 22A 26A 40A 16A
5.5SQ 45A 53A 79A
8SQ 57A 68A 97A
14SQ 83A 99A 145A
22SQ 115A 135A 180A
38SQ 165A 195A 255A

太さ選定で許容電流以外に重視すべき2つの要素

ほとんどの方が「この電線には最大150A流れるから165A流せる38SQのKIV電線を使おう」という感じで使用する電線の太さを決めていると思います。

ですが、そもそも各種KIV電線は車内という特殊環境での使用を想定していません。

そこで車内での使用を想定したエーモンの電線と比較して検証しようと思います。

重視すべき要素1. 導体温度

ご存じのように、電線は電流を流すと発熱します。

それぞれの電線の許容温度は

KIV電線:60℃
HKIV電線:75℃
ネツタフ:115℃
ワンゲイン:105℃
エーモン:80℃

そこで再認識して欲しい点が3つあります。

  • 許容電流の上限まで電流を流したら、導体温度はほぼ耐熱温度まで上昇する
  • 同じ値の電流を流したら、電線の種類に関係なく導体が細い方が高温になる
  • HKIV電線は導体が高温にならないのではなく、絶縁体が高温に耐えられるからその分多く電流を流せるだけ

つまり、許容電流の上限まで電流を流すと導体の温度は、KIV60℃、HKIV75℃、エーモン80℃ですが、ネツタフやワンゲインの導体は100℃を超えます。

たまに「KIVの22SQは許容電流115Aだけど、ワンゲインの22SQなら160A流しても大丈夫!」とか

「110A流れるからKIVなら22SQだけど、ワンゲインなら14SQで120A流せるから細く出来ます!」

などとよく聞きますが、電線が耐えられても端子周辺が耐えられるかはまた別の話なのです。

重視すべき要素2. 周囲温度

導体温度の説明でKIV電線なら許容電流の上限まで電流を流しても導体は60℃にしかならないと説明しました。

じゃあ、KIV電線の許容電流範囲内で使えばいいんじゃないの?と疑問に思うかも知れませんがそう単純な話でもありません。

上の画像はエーモンの2SQ電線のパッケージですが、「許容電流算出周囲温度:70℃」と書かれています。

これは配線の周囲温度を70℃として許容電流を算出する、言い換えると車内用の電線は最高周囲温度70℃での使用を想定してますってことです。

先ほどの表を見ると分かりますが、KIV系の電線はすべて許容電流算出周囲温度が30℃。

つまり、車内専用であるエーモンの電線と同等の安全マージンを確保するならば、周囲温度70℃での許容電流を算出する必要があります

下の表は周囲温度による補正係数です。

KIV HKIV ネツタフ エーモン
30℃ 1.000 1.000 1.000
35℃ 0.912 0.942 0.970
40℃ 0.816 0.881 0.939
45℃ 0.707 0.816 0.907
50℃ 0.577 0.745 0.874
55℃ 0.408 0.666 0.840
60℃ 0.000 0.577 0.804
65℃ 0.471 0.766
70℃ 0.333 0.727 1.000

KIV電線は周囲温度が50℃程度で許容電流が半減し、エーモンの許容電流算出周囲温度に満たない60℃の時点で許容電流が0Aになってしまいます。

つまり、KIV電線ではどんなに安全マージンを取ってもエーモンの基準には届きません。

HKIV電線の場合は、22SQを例にすると周囲温度70℃時の許容電流は135A(周囲温度30℃時の許容電流)x0.333(補正係数)=約45Aがとなり現実的ではありません。

注意

大抵の場合、許容電流の上限で使用するとただちに燃えたり溶けたりするわけではありません。
周囲温度70℃なら人も乗ってられませんし、端子周辺が100℃になったとしても影響がないかもしれませんので。
ただし、サブバッテリーシステムを板で囲っていたり、炎天下でエアコンも掛けずに使用しているとリスクが高まります。
リスクを回避するためには、やはりサブバッテリーシステムの換気と安全マージンを確保した電線の選定が大事です。

安心安全な電線サイズの選び方

電線の選定で重視すべき二つの要素を説明してきました。

ネツタフ115やワンゲインの電線は許容電流の上限で使うと導体つまり端子周辺が高温になりすぎ、KIV電線は周囲温度50℃で許容電流が半減、60℃で許容電流が0になります。

じゃあ一体どうすれば良いのかと言えば、KIV電線の許容電流に収まるように太さを決め、その太さのネツタフを使用するのです。

22SQを例にするとKIV電線とネツタフ115の許容電流(周囲温度30℃)は115Aと180A。

つまりエーモンと同じ許容電流算出周囲温度70℃でのネツタフ115の許容電流は、180Ax0.727=約130Aになります。

そして130A流すと導体温度は115℃になってしまうので、KIV電線の許容電流である115A以下で使うのです。

KIV電線の許容電流の上限ということは導体温度は60℃程度にしかならないので、これだけでエーモンの電線以上の安全マージンを確保出来ます。

KIV電線と同じ太さのネツタフ115に置き換えるだけなので取り回しは変わりませんし、コスト的にもネツタフ115はKIV電線とほぼ同価格です。

ネツタフ115について

ここで先ほどから推奨しているネツタフ115の詳細をお伝えします。

ネツタフ115はタツタ電線製の特殊耐熱ビニル絶縁電線。

導体最高許容温度115℃と高温環境下での使用に適していて、PSE認証品なので安心して使うことが出来ます。

KEBの知る限り楽天のKUROGISYOTENというショップが唯一ネツタフ115を1m単位で切り売りしています。

このショップなら22SQは10cm単位の切り売りもしてくれますし、1カ所50円で端子の圧着もしてくれますし、ANLヒューズやホルダー、裸圧着端子なども安いので一緒に買いそろえましょう。

※価格をクリックすると商品ページに飛びます。

2024/4/1現在
0.75SQ 60円/m 60円/m
1.25SQ 80円/m 80円/m
2SQ 100円/m 100円/m
3.5SQ 280円/m 280円/m
5.5SQ 400円/m 400円/m
8SQ 700円/m 700円/m
14SQ 1,000円/m 1,000円/m
22SQ 140円/10cm 140円/10cm
1,400円/m 1,400円/m
38SQ 2,100円/m 2,100円/m

圧着端子と工具について

最後に配線作業に欠かせない圧着端子と圧着工具について説明します。

KEBは1.25~5.5SQまでは絶縁被覆付圧着端子、8SQ~は裸圧着端子を使用しています。

絶縁被覆付圧着端子はとても便利ですが圧着工具が8000円~と高価で、端子自体もお高めです。

予算が許せば絶縁被覆付圧着端子がおすすめですが、すべての端子を裸圧着端子にしても全く問題ありません。
絶縁キャップとセットで使いましょう。

KEBはサイズ別に2つの裸端子用圧着工具を使用しています。
どちらも問題なく使えていますのでおすすめします。

太い電線をニッパーで切断するのは非常に大変です。
ケーブルカッターがあると作業が捗ります。

電線の被覆を剥く工具が1つあると大変便利です。
電装系カスタムの必需品ですのでぜひ一つは持っておきましょう。

まとめ

KIV電線の許容電流内になるように太さを決め、その太さのネツタフを使用するのがおすすめです。

周囲温度が上がらないように、サブバッテリーシステムの廃熱を考慮しましょう。

また、端子の圧着と締付は確実に行いましょう。
緩みがあるとスパークしたり抵抗が増えたりで発熱、結果簡単に溶けたり燃えたりします。

マージンをしっかり取って、安全安心に車中泊を楽しみましょう。

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