サブバッテリーシステムの設置のみならず車をカスタムする上で迷うのがKIV電線の太さの選定。
例えば1800Wのインバーターとサブバッテリー間の電線には
1800W / 12V = 150A
つまり最大150Aの電流が流れます。
そこで、許容電流が162Aの38sq KIV電線を選択すれば良いような気がしますが、果たして本当にそれで大丈夫なのでしょうか?
車両で使う電線の選び方
まず結論から
説明がちょっと難しい話になるので、結論を先に言います。
① 電線に流れる最大電流を算出する
② 許容電流x0.8が①で算出した最大電流以上になるKIV電線の太さを調べる
③ ②で調べたのと同じ太さのネツタフ115を使用する
④ 2000W以下のインバーター⇔サブバッテリーは22sqを2本掛けする
例えば、RENOGY 50A走行充電器⇔サブバッテリー間に流れる電流は最大50Aです。
KIV電線の許容電流を調べると、8sqが57A、14sqが83Aですので8掛けすると8sqが45.6A、14sqが66.4Aとなります。
8sqだと50Aには足りず、14sqなら50Aをクリアするので14sqのネツタフを使用すれば良いことになります。
インバーター⇔サブバッテリー間は基本的にインバーターに付属されている配線を使いますが、途中に電流計のシャントを割り込ませたりする場合はシャント⇔サブバッテリーを22sqのネツタフを2本つなぎます。
KIV電線の許容電流x0.8することで導体温度、ネツタフを使用することで周囲温度に対して安全マージンを確保しており、RENOGY 50A走行充電器の取扱説明書でもこの部分には14sqの電線を使うように指示されています。
安全マージンについては後述しますが、これでエーモンと同等の安全マージンを確保出来ます。
- ネツタフはKIV電線と同価格帯の商品で、コスト的なデメリットはありません。
- 確かに電線を細くすると数百円/m安くなりますし、取り回しも多少楽になりますが、溶けたり燃えたりするリスクを凌ぐほどのメリットとは思えません。
KIV電線の許容電流
規格 | 許容電流 | 許容電流x0.8 |
0.75sq | 7A | 5.6A |
1.25sq | 19A | 11.4A |
2sq | 27A | 21.6A |
3.5sq | 37A | 29.6A |
5.5sq | 49A | 39.2A |
8sq | 61A | 48.8A |
14sq | 88A | 70.4A |
22sq | 115A | 92A |
38sq | 162A | 129.6 |
安全マージンをどれだけ取るかは人それぞれ考え方があるでしょう。
この記事の内容はあくまでKEBの考えですので、どれだけ安全マージンを確保するかは自己責任でお願いします。
ネツタフ115について
ネツタフ115はタツタ電線製の特殊耐熱ビニル絶縁電線。
導体最高許容温度115℃と高温環境下での使用に適していて、PSE認証品なので安心して使うことが出来ます。
ネツタフ115もKIV電線と基本的な構造は同じ電線です。
では、何でネツタフを使うの?と疑問に感じる方もいるかと思いますので説明していきます。
この解説では一般的なKIV電線のことを「KIV電線」と表記します。
そもそもKIV電線ってどんなもの?
KIV電線は細い素線を絶縁体で覆ったいわゆる電線です。
KIV電線(電気機器用ビニル絶縁電線)は耐油性、耐水性、耐熱性、可とう性、加工性、また着色性等に優れており、環境に配慮した、絶縁体に鉛を含まない塩化ビニルコンパウンド(非鉛)を使用した電線です。IV電線との主な違いは、素線構成です。
JIS規格(JIS C 3316)の為、各メーカーによる性能の違いがほぼありません。
KIV電線は600V以下の電気機器の配線及び制御盤の配線に使用されます。
ネツタフって何?KIV電線とどこが違うの?
先ほど言ったとおりネツタフもKIV電線と基本的な構造は同じ電線です。
KIV電線と何が違うのかと言えば、ネツタフ115は絶縁体の耐熱性がKIV電線より高く、その分電流を多く流せます。
このように絶縁体の耐熱性を高めたKIV電線をHKIV電線と呼びますが、ネツタフはJIS規格のHKIV電線よりも耐熱性が高い製品になります。
KIV | ネツタフ | エーモン | |
導体最高 許容温度 |
60℃ | 115℃ | 80℃ |
許容電流算出 周囲温度 |
30℃ | 70℃ | |
主な太さの許容電流(許容電流算出周囲温度時) | |||
2SQ | 27A | 40A | 16A |
5.5SQ | 49A | 79A | ー |
8SQ | 61A | 97A | ー |
14SQ | 88A | 145A | ー |
22SQ | 115A | 180A | ー |
38SQ | 162A | 255A | ー |
KIV電線の絶縁体の耐熱温度は60℃、対してネツタフの絶縁体の耐熱温度は115℃。
つまり、KIV電線は導体が60℃になる電流までしか流せませんが、ネツタフは115℃まで電流を流せます。
このようにネツタフはとても優れた電線なのですが、使い方を間違えるとなまじ耐熱性が高い分危険なことになります。
ネツタフの危険な使い方
ブログやYoutubeでたまに見かけるのが「この電線には70A流れますが、この電線なら5.5sqで79A流せるのでオッケーです!」という人。
いますよね?
ですが、これ実はとても危険です。
ご存じのように、電線は電流を流すと発熱します。
それぞれの電線の許容温度は
KIV電線:60℃
HKIV電線:75℃
ネツタフ:115℃
ワンゲイン:105℃
エーモン:80℃
言い換えれば、許容電流の上限まで電流を流したら導体温度はほぼ耐熱温度まで上昇するのです。
KIV電線なら60℃、ネツタフなら115℃!
絶縁体が溶けないだけで、電線の温度が上がらない訳ではありません。
高電流を流せばその分当然発熱します。
ネツタフの5.5sqに70Aも流したら端子は100℃前後になります。
電線が耐えられても、端子周辺が100℃前後の高温に耐えられるかはまた別の話なのです。
安全マージンについて
電線の選び方で、導体温度については許容電流に8掛けし、周囲温度に対してはネツタフを使うことで安全マージンを確保すると説明しました。
ここでは、二つの安全マージンについて掘り下げていきます。
導体温度に対する安全マージン
例えば、8sqのKIV電線に許容電流の上限である61Aの電流を流すと導体温度は60℃前後になります。
ということは、ネツタフの8sqにKIV電線の許容電流の上限である61A以上を流すと導体温度は60℃を超えて上昇します。
許容電流内だからと、高電流を流すのは危険です。
周囲温度に対する安全マージン
電線の選び方で、ネツタフを使うことで周囲温度に対する安全マージンを確保すると説明しました。
何でKIV電線を安全マージンを確保した上で許容電流範囲内で使うのじゃダメなの?と思うかも知れません。
その理由は車内という特殊な環境で使用することにあります。
上の画像はご存じエーモンの2SQ電線のパッケージですが、以下のことが読み取れます。
- DC12V車200W以下 → 許容電流16.6A
- 導体最高許容温度:80℃ → JIS規格のHKIV電線(75℃)よりやや高耐熱
- 許容電流算出周囲温度:70℃ → KIV系の電線(30℃)よりはるかに高温の周囲温度を想定している
2sqのKIV電線の許容電流は27Aですが、エーモンの2sqは16.6Aです。
では、KIV電線の半分強の電流しか流せないエーモンの電線は低性能なのか?
答えはNOです。
KIV電線の許容電流は電線の周囲温度によって増減します。
上の表は周囲温度別許容電流の補正係数です。
どの電線も周囲温度30℃で1.000ですが、エーモンは周囲温度70℃で1.000。
それだけ高温環境になる可能性を想定しています。
KIV電線は周囲温度が50℃程度で許容電流が半減し、エーモンの許容電流算出周囲温度に満たない60℃の時点で許容電流が0Aになってしまいます。
エーモンが基準としている許容電流算出周囲温度70℃では、KIV電線ではどんなに安全マージンを取っても0A。つまり電流を流した時点で許容電流を超えてしまうのです。
では、ネツタフならどうでしょうか?
8sqを例にして説明します。
8sqのネツタフは周囲温度30℃での許容電流が97Aです。
よって、周囲温度70℃では97x0.727=70.5Aですが、この時導体温度は115℃前後になります。
エーモンの導体最高許容温度80℃÷115℃=0.695
70.5Ax0.695=48.99A
つまり、8sqのネツタフに流す電流を48.99Aまでに抑えれば、エーモンの基準である導体最高許容温度80℃をクリア出来そうです。
電線の選び方で説明したKIV電線の許容電流x0.8は61Ax0.8=48.8A。
これでエーモンと同等の安全マージンを確保できます。
ネツタフ115の入手方法
KEBの知る限り楽天のKUROGISYOTENというショップが唯一ネツタフ115を1m単位で切り売りしています。
このショップなら22SQは10cm単位の切り売りもしてくれますし、端子の圧着は1カ所50円。
ANLヒューズやホルダー、裸圧着端子なども安いので一緒に買いそろえましょう。
※価格をクリックすると商品ページに飛びます。
ネツタフ価格表(2024年12月21日現在) | ||
赤 | 黒 | |
0.75SQ | 60円/m | 60円/m |
1.25SQ | 80円/m | 80円/m |
2SQ | 100円/m | 100円/m |
3.5SQ | 350円/m | 350円/m |
5.5SQ | 450円/m | 450円/m |
8SQ | 700円/m | 700円/m |
14SQ | 1,100円/m | 1,100円/m |
22SQ | 150円/10cm | 150円/10cm |
1,500円/m | 1,500円/m | |
38SQ | 2,200円/m | 2,200円/m |
圧着端子と工具について
最後に配線作業に欠かせない圧着端子と圧着工具について説明します。
KEBは1.25~5.5SQまでは絶縁被覆付圧着端子、8SQ~は裸圧着端子を使用しています。
絶縁被覆付圧着端子はとても便利ですが圧着工具が8000円~と高価で、端子自体もお高めです。
予算が許せば絶縁被覆付圧着端子がおすすめですが、すべての端子を裸圧着端子にしても全く問題ありません。
絶縁キャップとセットで使いましょう。
KEBはサイズ別に2つの裸端子用圧着工具を使用しています。
どちらも問題なく使えていますのでおすすめします。
太い電線をニッパーで切断するのは非常に大変です。
ケーブルカッターがあると作業が捗ります。
電線の被覆を剥く工具が1つあると大変便利です。
電装系カスタムの必需品ですのでぜひ一つは持っておきましょう。
まとめ
周囲温度が上がらないように、サブバッテリーシステムの廃熱を考慮しましょう。
また、端子の圧着と締付は確実に行いましょう。
緩みがあるとスパークしたり抵抗が増えたりで発熱、結果簡単に溶けたり燃えたりします。
安全マージンをしっかり取って、楽しい車中泊を!